【サメ映画】『生体兵器アトミックジョーズ』レビュー

 攻/1600 守/1200
『生体兵器アトミックジョーズ』

原題:BLUE DEMON
監督:ダニエル・グロドニック
出演:デディー・ファイファー, ランドール・バティンコフ, ジョシュ・ハモンド, ダニー・ウッドバーン
備考:ジョシュ・ハモンドは『ピラニアシャーク』にも出演


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⒞2004 Maria's Garden Company Licensed by Presidio Corporation

 ときに人は尋ねる。


「どうしてサメ映画ファンはサメ映画を鑑賞するのか」「他に優れた作品が山程に存在するではないか」と。


 しかし、約束された名作映画を観ることだけが映画鑑賞ではない。

 ときに人は、名の知れた大作や万人の認める古典ではなく、“己の手でまだ世に知られぬ隠れた良作を掘り起こして観たい”という欲求に駆られるものである。

 そしてそれが、サメ映画という無限に続く砂漠の炎天下にも似たジャンルだからこそ、より心血を注ぎ込み、結果はどうあれ過程の最中に、数多のサメ映画ファンは童心を躍らせ、そこに一滴のロマンを感じるのだ。



 すなわちサメ映画鑑賞とは、海辺で砂の中に埋もれた宝石を探す、稚児の戯れのようなものなのである。



 まあ見つかるのは宝石どころか良くて角の丸まった色ガラス片程度でもあるのだが、それはさておき『生体兵器アトミックジョーズ』のレビューである。




 あらすじ

 政府機関の海洋研究所で人工的遺伝子操作による「ホオジロザメ」をつかい生体兵器の研究「ブルー・デーモン・プロジェクト」が進められていた。
 プロジェクトが成功すれば、最強の軍隊とアメリカの絶対的治安を得ることができる。

 ところが、研究所の立ち入り禁止区域に一般者が入りこみホオジロザメの犠牲になってしまう。この事件をきっかけに「プロジェクト」の存続が危ぶまれるようになる。
 さらに数匹のサメが研究施設から逃げ出していることが判明する。

 “生体兵器”開発という軍の極秘事項が公になることを恐れた軍部は人を襲い始めたサメにたいして、あくまでも普通のサメとしての対応しかしなかった。

 人々は暴走するサメの被害をとめることが出来るのだろうか。(パッケージ裏のSTORYより引用)










 当ブログでは毎回同じようなことを言っているが、今回取り上げる『生体兵器アトミックジョーズ』もまた、決して『サメ映画』としての品質を期待してはいけない類の作品だ。





 というのも本作のサメは、“軍部の実験によって非常に高い知能を得た生体兵器”という設定を持つが、外見も劇中での行動も基本的には完全に普通のサメなので、完全に設定が描写に負けている。

 それどころか、科学者によって強化手術を受けたはずのサメの一匹は“名も知れぬモブキャラによって簡単に銃殺される”始末であるため、いくら主人公が本作のサメの特別性や危険度を訴えたところで、どうにも説得力に欠けるのだ。



 そこに付随して、本作のサメの捕食シーンでは直接描写を劇中一度しか見せず、他は人間が食われる瞬間、場面転換しつつ海面に血糊を流す程度の演出しか観られないことに加え、CGの使い回しも多く何度も同じ場面を見せられるため、サメ映画の肝とも言えるサメの魅力は全編通して乏しい。



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⒞2004 Maria's Garden Company Licensed by Presidio Corporation

↑サメを魚と考えたのは大変な誤りであり、サメはアメリカの万能フリー素材である。



 多少トンデモ路線に寄ろうとも、捕食シーンで生体兵器に進化したサメの恐ろしさなり、強さなりを魅せることが出来ていればまた話は違ってきただろうが、本作のサメは獲物を襲う際、ビート板を抱えた幼稚園児の水泳教室に匹敵する低速で無策にも相手に近づき、そして劇中モブキャラにすら何度も余裕で逃げられるという無様を晒しているため、本作からは終始緊張感というものが伝わってこないのだ。



 更に、登場するサメ6頭の内、1頭は前述のようにモブキャラに殺されるのだが、もう1頭を除いた他の4頭はこれまた直接描写もないまま、電気信号での遠隔操作により纏めて一瞬で死ぬという、呆気ないどころではない最期を遂げる。

 カタログでは普通のサメから進化した怪物という恵まれたスペックを誇りながら、本編での危険性では海辺でうっかり釣れたオニカサゴ未満の脅威しか披露出来ていないというのは、サメ映画というジャンルにおいて致命的だ。



 少なくとも、サメの強さや恐ろしさという点においては、近年粗製乱造されている“サメである脚本上の必要性がないトンデモ路線のサメ映画”の方が、一応普通のサメ映画路線である本作よりまだ描けているというレベルである。







 そのように、サメの魅力には著しく欠ける本作であるが、しかし一方では登場人物、特に悪役には良くも悪くも個性豊かなキャラクターが多い。



 例えば、軍部の上官にしてサメの軍事利用を企む軍部のトップ・レモラ将軍

 某国の国歌を連想させる専用BGMと共に登場する彼の姿は、一瞥して「あっ、コイツ絶対事件の黒幕だな」と完全に分かってしまうほどに古典的な小悪党のオーラに満ち溢れており、チープな衣装の効果もあって、単純に観ているだけで既に面白いほどだ。



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⒞2004 Maria's Garden Company Licensed by Presidio Corporation

↑本作の悪役・レモラ将軍。
劇中では、彼が何か喋る度に一々軽快な専用BGMが流れるため、本編に顔を出すだけで笑えてくる優秀な悪役として完成されている。




 典型的な熱狂的愛国者にして、劇中では施設から逃げ出したサメを追う主人公一行を、裏から妨害することに勤しむレモラ将軍なのだが、彼は終盤、“何故か軍事施設の研究所に置いてあった浮き輪で拘束された挙句、ヒロインに股間を蹴り上げられる”という体を張った見せ場によって、サメ以上に本作を盛り上げてくれる。



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⒞2004 Maria's Garden Company Licensed by Presidio Corporation

↑浮き輪で拘束された状態のまま股間を強打するレモラ将軍。
今風の悪役らしく顔芸にも定評がある。






 というより正直なところこの映画、サメよりレモラ将軍のインパクトでどうにか作品として成り立っているように思えてならないほど、彼の存在感はサメや主人公以上に抜群であった。





 次に、中盤まで悪役のように描写されていた主人公の上司・ローレンス

 彼は終盤まで、“権力者には媚を売るが、主人公には下らないことで一々叱責する嫌な奴”というポジションの、どこにでもいるような悪役として描かれている。



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⒞2004 Maria's Garden Company Licensed by Presidio Corporation



 実際、序盤から本編終了間際の彼は、


・潔癖症気味に部下の態度を何かと細かく指摘する
・研究の成果を一向に出せない主人公一同に対して何かと当たり散らす
・しかし自分は勤務中であるにもかかわらずTVゲームで遊んでいる無能な管理職



というような、これまた古典的な小悪党といった描写が多く見られ、「きっと最後には因果応報めいて酷い目に遭うんだろうなあ」との未来が推測されるタイプの脇役だったのだ。





 だが、彼ことローレンス、終盤で前述のレモラ将軍が悪事を暴かれ、主人公一行に捕まった途端―





 何故か主人公を差し置いて、小粋な決め台詞を言い放つ。





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⒞2004 Maria's Garden Company Licensed by Presidio Corporation




 
 そして彼は主人公を差し置いて、確保されたレモラ将軍と単身対決しつつ― 





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⒞2004 Maria's Garden Company Licensed by Presidio Corporation





 何故か再び小粋な決め台詞を言い放つ。





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⒞2004 Maria's Garden Company Licensed by Presidio Corporation











 仕舞に彼は主人公を差し置いたまま、レモラ将軍を密室に閉じ込めつつ、突如としてそこに特攻してきた“核兵器を食わえたサメ”を機敏なローリングで切り抜けながら爆発する軍事施設から脱出するという、本作屈指のMVPとも言える活躍を見せるのだ。











 ついでに、何故か自分に特攻してくるサメに対して敬礼するレモラ将軍。





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⒞2004 Maria's Garden Company Licensed by Presidio Corporation




 どうしてスタッフはこの二人を軸に据えた作品を撮らなかったのか。







 とのように、悪役には良い意味でキャラの立った強烈な面々が揃っているが、主人公とヒロインに関して言えば、


・上司に部屋へと呼び出され、仕事の進捗を尋ねられた際、サンドウィッチを齧りながら対応する
・何食わぬ顔で上司の私物に触れて叱られる
・それどころか本人の真横で平然と上司の机の上に座る
・軍部の高官を招いたプレゼンテーションの最中に私語を連発、それも内容は二人の恋愛関係について(もちろん上司に窘められる)



など、「お前本当に二十歳を過ぎた社会人なのかよ」と疑いたくなるほどの粗相を連発するため、見方次第では悪役以上に悪い意味でキャラが立っている。 



 というよりレモラ将軍とローレンスのキャラが凄まじく濃い反動で、サメはおろか主人公一行のキャラまで半ば霞んでしまっているのだが、サメ映画というジャンルにおいてその程度は今更些細な問題であり、面白ければそれ以上の完成度を求める必要もないだろうというのが当ブログの方針であるため、ここでは問題視しないでおく。
※まあレモラ将軍とローレンスが面白いだけで、この映画は色々と内容のアレなZ級映画だと思うんだけどね。







 他に、本作のストーリーに関して触れておくと、サメ映画であることを前提に考えれば、それ自体は可もなく不可もなく平凡な内容といったところであろうか。

 話が進むごとに作風がシリアスからコミカルな調子へと移り変わっていき、中盤以降やたら合間にギャグを挟んできたりサメを出すことを放棄したまま突然カーチェイスを始めたりするのはどうかと思ったが、正直路線を変更した後半の方が見所の少ない前半より面白かったため、あえて短所として挙げるほどのことでもないだろう。

 展開に起伏がなく妙に淡々と話が進むため、別に長所して挙げられるわけでもないが。





 以上、サメ映画として観れば微妙どころではなく悲惨な品質の『生体兵器アトミックジョーズ』だが、観る側があえて姿勢を変え、レモラ将軍とローレンスの動向に注目しつつあえてサメから目を背ければ、多少なりとも見所を探すことの出来る余地は存在する作品だと思う。



 サメ映画とは“一見退屈なように思える時間の中でも、日々小さな幸せを見つけて楽しむ人生の縮図のようなジャンル”であるため、この映画を鑑賞することで、もしかすると我々視聴者も平凡な日々の尊さを学ぶことが出来るかもしれない。



 出来ない。

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コメント

非公開コメント

サメは万能フリー素材。
ナチスとアドルフおじさん閣下もフリー素材。
結論:サメとナチスは生物学的近縁種である。

サメ映画は悟りの近道だった…?

No title

まぶしくなるくらい青いヤングカップルのシーンは「こいつらは許してやってくれ」と思ってかなりドキドキしたので結構好き。

No title

まともなやつがいない・・・

No title

一応「面白い映画を見たい」という欲求があった上で
サメ映画を鑑賞していたという事実に衝撃を隠せない
「アメリ」みたいな奇跡はそうそう起こらんのや……

No title

この世にあるサメ映画はココでブログの餌になるために存在してる可能性が・・・?
映画とゲームに共通して愛される(USAに)素材はゾンビなんだよぁ
でもゾンビはメイクが大変だしエキストラが大勢必要だからムリだな!(製作が)

No title

最近huluでサメ映画特集がはじまりました。
こちらのブログで予習していたので、安心して自己責任のもと鑑賞しようと思います!

No title

いや~、自分もあなたのおかげでクソ映画/サメ映画を観始めました
最初は「シャークネード」中々面白かったです!
そして次なる映画として「デビルマソ」を観ました… Twitterでも呟いてましたが、本当に糞でした…
ああ、原作を読みたい と思ったんですが…
何かオリジナルの「KC版」の他に「新装版」とか「改訂版」あって、どれを読めばいいのやら…
一番いいのは「KC版」なんだろうけど、次にいいのは「新装版」と聞いた事が…

サメに脅威を感じないサメ映画ね
そういうのもあるのか。
主が名作だと思うサメ映画を教えてほしいな

私が名作だと思うサメ映画

Twwiterでも何度か呟いているのですが、『ジョーズ』(初代)、『ディープ・ブルー』、シャークネードシリーズは別格として、

・純粋なサメの恐怖を題材にした作品なら『赤い珊瑚礁 オープン・ウォーター』(『オープン・ウォーター』とは別作品です)

・王道パニック映画としての作品なら『パニック・マーケット』

・Z級に片足突っ込んだトンデモ路線なら『ビーチ・シャーク』

・その他作品の完成度や個人的な雰囲気の好みという点では『ジョーズ 恐怖の12日間』、『ジョーズ・アタック』(1)、『アフター・ザ・ストーム』

辺りですね

返答ありがとうございます。
twitterをやっていなかったため
手間を掛けさせてしまいました。
すみません