【ホラー映画】『Mr.タスク』レビュー

 セイウチになるしかない
『Mr.タスク』

原題:Tusk
監督:ケヴィン・スミス
出演:ジャスティン・ロング, マイケル・パークス, ハーレイ・ジョレル・オスメント, ジェネシス・ロドリゲス
備考:●ョ●ー・●ッ●も親子揃って初出演


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⒞2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc.

 今年2016年の新春に登場した衝撃のセイウチ人間映画、それが本作・『Mr.タスク』だ。

 元旦のムードも名残惜しい1月10日に本作を観た者は、“身体を鰭脚類に改造されたセイウチ人間_VS_自家製セイウチスーツに身を包んだ連続殺人犯”という、未曾有の異種格闘技戦を目に焼き付けたことだろう。





 年始から大概とんでもないものを売り出してくれたよな。




 あらすじ

 ポッドキャストを運営するウォレス・ブライトン(ジャスティン・ロング)は、取材でカナダを訪れる。
 とあるバーに立ち寄ったとき、 航海の話を聞いて欲しいという元船乗りの老人がいることを知り、彼の家を訪ねることに。

 老人はハワード・ハウ(マイケル・パークス)と名乗り、手厚いもてなしを受けるウォレス。ハワードが体験した壮絶な航海の話を聞きながら紅茶に手を伸ばすが、それには睡眠薬が含まれていて、たちまち気を失ってしまう。

目が覚めると車椅子に縛り付けられており、さらには足の感覚がなく、パニックになるウォレス。そこでハワードは「これから君はセイウチになるんだ。“Mr.タスク(キバさん)"」と告げる。

連絡が途絶えたウォレスを心配して友人のテディ(ハーレイ・ジョエル・オスメント)と恋人のアリー(ジェネシス・ロドリゲス)は
とある人物と協力し、彼の追跡を始める―。(Amazonのストーリーより引用)










 とりあえず率直に言って私はこの映画が名作映画であると信じている。そこは譲れない。





 まず、本作の序盤ではタランティーノ作品のごとく、本筋と関係のない無駄会話を中心に、スローなテンポで話が進んでいく。
 冒頭から主人公の飛ばす下品なジョークや、道中での些細な喧嘩、本作における殺人鬼・ハワード老人の語る世間話に過去話などが延々と続き、本編開始から20分程度経過するまで、セイウチの姿は名前すら影も形もない。

 というと、「それってまたクソ映画が尺を稼いでるんじゃねえの?」と思われた方も多いだろう。



 しかし、それは違う。
 何故かといえば、本作の無駄会話は面白いのだ。まさしくタランティーノ作品のように。




 特に、ハワード老人が主人公に話す、



・「ただの酒瓶でも、そこに物語があればお守りになるし、別の時間や場所に誘ってくれるドアにもなる―」「歴史の懸け橋として」


・「思ったんだが、手や足を失うという気持ちは、当たり前のように傍にいると思っていた親友を失うのと似てないかね」



・「人類の―」「本質は―」「セイウチではないか?」



という名言の数々には、何か含蓄を感じさせるようであり、機知に富んでいるようであり、「バカじゃねえの?」と笑ってしまいかねない魅力が詰まっているようであった。



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⒞2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc.

↑セイウチについて熱く語るハワード老人。



 無論好き嫌いは別れるだろうが、少なくとも『内容が練られている』、かつ『本筋と関係なくとも聞いているだけで楽しめる』時点で、本作の無駄会話はクソ要素として挙げるに適さないだろう。





 また、


“本物の刀で『キル・ビル』の真似をしていたところ、自分の足を切り落としてしまった少年を仕事のネタにするべく、はるばる取材に出かけた主人公が、自身の足を切り落とされたり腕を縫い付けられたりする”


 という皮肉な構成や、


・場面の時系列を一部前後させることで“セイウチ化前の平穏さとセイウチ化後の悲惨さを対比させる”


 という演出には案外凝っている点も、本作の見所として強く主張していきたい。



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⒞2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc.

↑ハワード老人によって枕のごとく扱われる主人公のセイウチ人間。





 そして本作の目玉は前述した通り、クライマックスでのセイウチ人間VS人間セイウチである。



 “毎年セイウチ人間を生み出しては命を懸けた勝負を行う”という<クソ儀式を続けてきたハワード老人と、身も心もセイウチになるまで調教されてしまった『Mr.タスク』による、壮絶な身体の擦り付け合いは、本作のラストバトルに相応しい一大決戦であった。



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⒞2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc.

↑本気になったハワード老人セイウチスーツ着用仕様。
なお彼は劣勢になった途端セイウチスーツをパージする。






 だが、かといって「なーんだ、クソ映画かと警戒してたけど、本当は笑って観れるバカ映画だったのか」と判断するのは早計だ。



 というのも本作、“土台の部分は普通のホラー映画として、猟奇的かつ残虐的に作られている(人体破壊や若干の流血表現など)”ので、ホラー映画に耐性のない方が油断して借りると、『Mr.タスク』は貴方に牙を剥くだろう。







 もう一点付け加えておくならば、本作は別に『荒唐無稽なだけで中身のない作品』というわけもない。

 序盤から度々台詞で触れられるように、本作では人間を憎む一方でセイウチを慈しむハワード老人や、ヒトからセイウチへと生まれ変わった主人公を通じて『人間という生物の醜さ・愚かさ・そして切なさ』や、『人間と動物を区別するものとは何か』というテーマを一貫して描いている。
 そこには単なるグロテスクなユーモアに留まらない、哲学的な問いが身を伏せているかのようだ――



 とか思っているとエンドロールの中頃から不意に始まるスタッフのコメントによって全部考察を覆されるので、やはり本作はジョークとして受け止めた方が良いだろう。






 とはいえ本作、これが意外と面白い。

 その悪趣味な題材は人を選ぶが、波長の合う方には最高の作品とも思われる。
 万人には受けないかもしれないが、本作は後年『怪作』とか『珍作』という代名詞と共に、ホラー映画界の北極圏で密かに語り継がれていくことだろう。





 いや、やっぱりどうかな。

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コメント

非公開コメント

No title

これは割と映画ファン的には話題になりましたよね
個人的にはちょっと偽悪趣味がキツいかな~と思いましたが

No title

そうですねえ
セイウチ人間を鎖で繋いで虐待するところなんかは流石にちょっとエグいなーとも思いました

序盤のトークの心地良さと終盤のセイウチバトルが完全にツボに嵌まったので、度を越して悪趣味な部分もアクセントとして私は受け取っていますが、逆にそこだけで少し贔屓しちゃっているかもしれません
まあ題材からして割と屈折したセンスの作品なんですけどね

No title

はじめまして!
いつも楽しませていただいてます。

この映画、監督がケヴィン・スミス!なんですね
俄然、興味が出てきました。
ケヴィン・スミスが監督なら100%ギャグで作っていると思いますよ

No title

はじめまして。
レビュー楽しく拝見しています。
ヘミングウェイの会話からの狂気とユーモアで
良くも悪くもインパクトのある作品でした。
セイウチバトルのスーツバージは思わず
反則じゃんwと突っ込んでしまいました。
突き抜けたビジュアルに笑ってしまうあたり
ちょっとターボキッドを思い出して
しまいました。
どちらも面白い作品でした。
あっ!レビュー見て
ナチス・オブ・ザ・デッドみました。
ビール片手に楽しめました。

こんなにセイウチが出てくる文章は生まれて初めてだ
そして多分最後だろう

No title

セイウチがゲシュタルト

No title

待って?
元天才子役(A.Iの主人公とか)の名前が見えた気がする

割りと面白そうね
借りてきますわ!

No title

ハーレイ・ジョエル・オスメントが来日したりとそれなりに有名な映画なのでこちらで紹介されたのに驚きました
(B級でも渋いマイナーどころが専門かと思っていたので)

SF的な意味でセイウチ人間に改造されると思って観たからビビった

No title

はじめまして。
いつも楽しく読ませていただいております。

まだ見ておりませんが、生物学的なパッケージに惹かれました。

こちらのサイトのセイウチスーツ装着博士の絵とパージのコメントで吹きました。

GEOでゾンビーバーのとなりで貸し出されてた。