【スラッシャー映画】『案山子男』レビュー

 ただのカカシですな
『案山子男』

原題:Scarecrow
監督:エマニュエル・イティエ
出演:ティファニー・シェピス, マーク・アーヴィンソン, リチャード・エルフマン, トッド・レックス, ジェン・リッチー, ティム・ヤング
備考:本作もアルバトロス・製作の一部にはアサイラム


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⒞2002 YORK ENTERTAINMENT

 良作と言うほど優れたところがあるわけでもなく、かといって駄作と呼ぶほど酷いわけでもないが、観た後で妙に心に残るという作品はあるものだ。

 褒めることも、貶すことも難しい。けれども中途半端という評価もまた違う気がする。
 他人に薦められる出来ではないはずなのに、ふと気が付けば何度も繰り返し観てしまっている、ポップコーンのようなB級映画。

 私にとっての『案山子男』とは、そのような類の一本である。





 ちなみにこの怪物はトウモロコシで相手を刺殺する。
 




 あらすじ

 内向的な高校生であるレスターは、クラスメイトの酷い苛めや、愛人との情事に耽る母親に鬱屈した感情を抱えたまま、画家を目指して辛い日々を耐え忍んでいた。

 そのような彼を不幸にも、小さなボタンの掛け違いによる失恋と、“自分の作品を軟弱と足蹴にされる”という悲劇が襲い、挙句レスターは酔っ払った母親の愛人によって、近所の畑の中で絞め殺されてしまう。

 だが一体どうしたことか、死後彼の怨念は畑に立てられていた案山子に乗り移り、痛みを感じぬ体を持つ悪魔、案山子男と化して蘇ったレスターは、自分を蔑んだ人々への復讐を開始するのであった―



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⒞2002 YORK ENTERTAINMENT

↑本作の殺人鬼にして主人公・『案山子男』
Xに縫われた右目がクールである。




 さて、本作のあらすじも恒例のごとく捻ったところの少ない、至ってシンプルな脚本だ。

 もっとも、スラッシャー映画の脚本など大抵は単純明快な代物であり、むしろ数々の名作映画に固められた様式美の中「どこにどれだけユニークなアイデアを盛り込めるか」がB級映画の醍醐味とも言えるため、まだここで良し悪しを断ずるのは早計だろう。

 それではこの映画と他の映画を明確に区分するものとは何か?






 本作の殺人鬼である案山子男の挙動が、何故か逐一アクロバティックなのだ。



 この案山子男、初登場時からして機敏な空中連続前転を決めつつ標的の前に降り立ち、得物の鎌による鮮やかなジャンプアタックで首を一撃刈り取ると、ジョークの一言と共にそのまま撤収していくという、ホラー映画の殺人鬼にしては実にスタイリッシュな手口を取る異色の殺人鬼である。


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⒞2002 YORK ENTERTAINMENT

 ↑空中連続回転を決めた直後の彼。スモークの演出と小粋なジョークは欠かせない。
なおスタッフ曰く、彼のスタントのイメージには『マトリックス』を参考にしたとのこと。何故ホラー映画で。



 他にも案山子男は、バックスタブきりもみジャンプ華麗な後ろ回し蹴りなど、その技巧派レスラーのごとき才能を劇中で遺憾なく披露してくれており、殺人シーンの見所には事欠かない。

 元々は冴えないギークに過ぎぬ主人公のレスターが、一体どこで上記のアクションを会得したのか定かではないが、きっと体を藁に置換したことによる軽量化が産んだ肉体美の賜物なのだろう。


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⒞2002 YORK ENTERTAINMENT

↑ステージでのマイクパフォーマンスも完璧。
生前の彼とは比にならないほどのエンターテイナーである。



 また、前半約30分に渡ってじっくりと社会から締め出されていき、案山子男となるまでの過程を描かれた、レスターの日常パートにも見るべき部分は多い。

 画家を志して日々努力する彼ではあったが、授業中絵を描いているところを教師に見つかってそのまま晒し上げられるレスターや、好きな女の子に暗い鳥の絵をプレゼントしたところ、無残にも破り捨てられてしまうレスター。

 そして、恋した相手への些細な誤解が最後の一撃となり、これまで溜め込んでいた感情をついに爆発させるレスターといったように、どうにも社会に馴染めず、余計に精神を病んでいく主人公の様子が、観ていて居たたまれなくなるほど入念に描かれていくのだ。

 そこに付随して、役者の演技こそ下手な部類であるものの、何か危うい感情を常に張り詰めた真顔で押さえつけているかのようなレスターの表情には、上述の描写も相まって、より真に迫るものがあった。


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⒞2002 YORK ENTERTAINMENT

↑授業中盛大に自分の絵と夢を否定されるレスター。
彼に非がないわけではないが、これはキツい。

 

 もう一点、本作の音楽も評価されるべきであろう。

 冒頭で流れる、いかにも“ここは不気味な雰囲気のシーンなんだぜ!”とでも自己主張しているかのようなテーマソングは、“短時間に二度使い回される同じ映像の数々”や、“スローモーションと主役の顔面のズームアップで無駄に尺を稼ぐオープニング”といった欠点を、幸か不幸か十分に補ってしまうほどのクオリティーを誇っていた。



 とはいえ、上記の三点を除けば他は並かそれ以下の出来であるという印象も強い『案山子男』ではあるが、監督のインタビューによるとこの映画、


 製作期間は8日しかなかったとのことである。


 それだけの短期間に十分見所として挙げられる要素を三点も盛り込み、かつ内容自体はある程度楽しめる作品として完成させた、スタッフの方々の努力には尋常ならざるものがあっただろう(一部のスタッフには一日20時間働いた日もあったそうな)。

 そのような裏話も含めてこの案山子男、私には決して嫌いになれない作品である。



 ちなみに、この案山子男には続編が二本出ており、ストーリーの繋がりはないため何作目から観ようが構わないといえば構わないが、続編二作はよりクソ映画路線に特化しているので、比較的普通の映画が観たい場合はまず本作をオススメする。



 まさか後年案山子男がロケットランチャーで爆散するとはこのとき夢にも思いませんでした。


 

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コメント

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No title

スリープウォーカーズという映画にもトウモロコシで人を刺すシーンがあったけど、B級映画を撮る人には共通する発想とかあるんだろうか

No title

好きな案山子男がとりあげられて嬉しい!勢い余って明るい時間に街に出ちゃう案山子男かわいい。

No title

なぜか「ヒューマン・キャッチャー」が脳内で混ざる困った映画
かかし繋がり?

メタボ戦隊アホレンジャーなるものをコメディ映画好きな息子の為に借りてき、気まずくなった去年。今ではこれを親子で見て笑ってる...一体一年で我が家に何があったのだろうか...

No title

案山子男を借りてみました。まさに主の言う通りという感じでしたね。
中途半端ともいいにくいが、他人にオススメしたいわけでもない・・・でも面白い(?)という、明確なイメージをつかみにくい映画で斜め上に楽しめました。
これぞまさにB級といったところなのでしょうね

No title

グロンギみたいでカッコイイ